グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ



ホーム >  本校ブログ >  塾頭コラム#51:不幸な思い込み

塾頭コラム#51:不幸な思い込み


科学が進歩し、様々な研究が進む中で、それまでは「正しい」と思われていたことが、実は大きな間違いだった…ということはよくあります。身近なところだと、スポーツ。私が中学生くらいの頃は、「練習中に水を飲むのはご法度」でした。炎天下でも水を飲むことは禁じられていて、隠れて水を飲んだりしようものなら、こっぴどく叱られたものです。しかし、今では水分補給の重要性は浸透していますし、練習中はおろか、試合中でも給水タイムが設けられています。他にも、昔ながらの腹筋運動(上体起こし)と言われるものですね。これも、当時は筋トレの代表的メニューでしたが、現在では腰への負担から推奨されません。このように、過去の常識が、現在の非常識になっていることは多く、子どもの教育でも例外ではありません。

例えば、その一つに「自分のことは自分でやらないとダメ。人にやってもらっている子は自立できない」ということがあります。部屋の片づけができない子に、いつまでも親がやってあげていると、いつまでも自分でできるようにならない…この考え方は、一般的だと思います。ところが、最先端の発達心理学では、「親や先生がやってあげたほうがいい」と明言されているのです。

とある幼稚園で、観察研究が行われました。2つのクラスで、クラスAは「先生がなんでも優しく手伝ってくれる」という方針です。クラスBは「●歳なんだから、自分のことは自分でやりましょう」という方針です。2つのクラスの子どもたちは、最初は同じ程度の自立度合いだったのですが、1年経つとはっきりと違いが現れました。なんと、クラスAの子どもたちの方が、自立の程度が上がり、自分でできる事が増えていたのです。反対に、クラスBの子どもたちには「自分でやろう」という気持ちはあまり見られませんでした。つまり、世間で考えられているものとは、正反対の結果になったわけです。
「不思議だな」と感じると思いますが、そこにはきちんとしたメカニズムがありました。教育の世界では、子どもを伸ばすための必須条件として、2つのことがあげられます。
  1.指導者との人間関係の良さ  2.自己肯定感の高さ
先ほどの幼稚園の観察研究でいくと、なんでも優しくやってくれるクラスAの先生のことを、子どもたちは大好きになるわけです。大好きな先生をお手本にし、認めてほしくて頑張ります。この効果が絶大で、発達心理学では「できないことは大人がやってあげたほうがいい」というのは、定説なのだそうです。

しかし、手伝う際に、『●歳にもなって、こんなこともできないの?』『あなたはいつも××なんだから』など、否定的な言葉を添えてしまうと、いけません。否定的な言葉の繰り返しで、人間関係は悪化しますし、子どもの自己肯定感は下がります。つまり、子どもを伸ばすための2大要素の両方を損なってしまうのです。大人としては、「できないことをやってあげている」と思うのではなく、「まだ自分ではできないから、良い見本を見せてあげている」という意識で臨むといいでしょう。それを見て、いつか同じように自分もやろうと、子どもたちは成長していきます。

また、最近は少なくなりましたが、それでも「いつまでも塾に頼っていると、将来自立できなくなる」というご意見をお持ちの方にも出会うことがあります。発達心理学や教育心理学の世界で言われるように、「自立できなくなる」ということはありませんし、私たちも「勉強を通して、将来社会に出た時に、課題解決ができるように」という思いで、その訓練をさせているつもりです。少なくとも、高校生くらいまでは、こうして大人が手を差し伸べることで、プラスになる面が大きいと思います。さらには、助けがある環境で育つからこそ、本当に困ったときに「助けて!」と言えるという側面もあります。「自分のことは自分で」「人に頼るな」「甘えるな」と言い過ぎると、本当に苦しい場面に遭遇した時に、相談できず、心を破裂させて
しまうことも少なくありません。子どもの成長を願うからこそ、しっかりと手を差し伸べていきましょう。